フィクションの断片

世界は変わっていない

最近思い出すのは20歳くらいの頃。 たいして輝かしい時代でもないんだけど……あの頃、何かいろんなものでいちいち大げさに感動したり怒ったりしていて その感覚は今も失ってはいないんだけどその時美しいと思ったものは、今でももちろん美しいと感じるんだ…

ゆびさきのつぶやき

こんな一行を書き始めるのに意味なんていらない。 悩みもいらない。感動もいらない。テンションの高さも特には必要ない。 ただ、立ち止まって信号をじっと見つめるかのように、キーボードに向かえばいい。 自分のことにさほど興味がなくなってもいい。部屋に…

春が来た、春が来る

春の空気の匂いには、過去と未来がごっちゃに混じっているような ワクワクするような、寂しくなってしまうような 不思議な音楽が混じっているような気がする。昔のことを懐かしみながら、将来をくるしいほどに望んでしまう。 「今」っていう感じがする。

Rain Rain

過去のファイルから見つけた、劇の脚本の断片。 冒頭、主人公の少年の独白。 「子供の頃から、雨の日が好きだった。特に理由があったわけじゃない。ただ、眩しい光が昔からちょっと苦手だったから。友達と外で遊ぶのは楽しかったけど、明るい日差しは何だか…

花と骨と、残る何かと

愛されて慕われて、生涯をまっとうした人の葬儀はしめやかに執り行われた。 病室や家族の暗い顔にあった胸を刺す痛いトゲの姿はもうない。 悲しみさえも優しく穏やかな空気に包まれている。まさに「見送る」という言葉がふさわしい。 葬儀とは、なんて繊細で…

連休最後の夜

目が覚めたら雨が降っていた。昨夜は朝まで遊んで、帰って来てから何度か眠り、何度か目覚め、ちょっと外でも行こうかなと思ったらもう日暮れ。 起きたらもう一日が終わりというのは何度やっても気が沈む。しかし昼間眠る快感というのもまた格別なのだ。 着…

立ち入り禁止の札があなたには見えますか

女友達とお決まりの会話。 どうしてお互い恋愛がうまくいかないか、うまくいく相手がいるとしたらどういう人なのか。 お決まりの提案、お決まりの慰め、お決まりの流れに心地よく乗りながらも、ふと、浮かび上がってきた言葉。 「もっと踏み込んでくれる人が…

寒の戻り

ここ最近、寒さが戻ってきた。 暖かくなりはじめたと思っていた矢先だから、なおさら身にしみる。 私は寒さにはめっぽう弱い。だから寒い時には極力外に出ないでじっとしている。たまに嫌々出るときには厚着をして身を守り、必要最低限のことだけやって、大…

いやおうなしに川は流れる

何から話せばいいのか。それがわからないから、いつも後回しになる。 だけど、時間は限られているから、思いついたことをかたっぱしから書いていくしか方法はないのだと知った。 一生懸命生きているつもりでいることは簡単だけど 一生懸命生きることは簡単で…

いつかすべてが懐かしい場所になる

10代の終わりから20代のはじめまで、私には大変お世話になった家がある。 私と彼は中3の時の同級生で、その頃知り合った彼をはじめとした何人かの仲間は、私にとって人生でほぼ初めての本物の友達だった。 中学、高校と楽しく過ごし、その後も若くして…

最初にあったのは音だった。

ふと、昔(十年くらい前)を懐かしく思い、その頃通いつめたテキスト系サイトなどを探してみたのだが、意外にもそのほとんどが消息不明だった。みんなそこそこ有名なサイトだったのに。 当時は、あるのが当たり前だから特に連絡取ったり常に存在確認したりし…

羽根

その日、月の無い夜、わたしは四辻の古びた街灯の下に立ちぼんやりとただ待っていた。 淡い乳白色の光は、点滅しながら足元にわたしの影を作る。遠くで、救急車のサイレンが壊れた旋律を繰り返していた。道を僅か何本か隔てたすぐ向こうに、休日前夜の騒がし…

遊べや遊べ

ここは駅前で、今は夕暮れ時。私に分かったのは、そのことだけだった。どこの駅かはわからない。細かい雨が降っているが暑くもなく寒くもない。私はぼんやりと傘をさしたまま大階段に座っていた。階段は駅ビルに繋がっていて、目の前は広場になっている。座…

花をください

視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚。どれか一つと引き替えに、あなたに富を与えましょう。帰り道に突然袖を引かれ、老婆が言う。いきなり即断を求められてうろたえるが、借金もかさんでいたことだし、味覚と引き替えに富をもらった。 その日から僕は、スポンジと…

深山・幻想

死んだ父を特別懐かしいと思っていたわけでもない。 が、条件がそろう時はそろうものだ。これがめぐりあわせというものかな、と、山道をのぼっていく車の中でそう思う。九月の末になっても依然夏日のような陽気が続いていたが、奈良の山はすでに秋の気配に染…