最初にあったのは音だった。
ふと、昔(十年くらい前)を懐かしく思い、その頃通いつめたテキスト系サイトなどを探してみたのだが、意外にもそのほとんどが消息不明だった。みんなそこそこ有名なサイトだったのに。
当時は、あるのが当たり前だから特に連絡取ったり常に存在確認したりしてなかった。今思えば悔やまれる。
あの人も、あの人も、誰にも代えられないすばらしいサイトを作っていたのに。
そんなことをしているついで、自分が作ったサイトを見つけた。
いや、覚えてたけど、数年ぶりに見た。
意外と悪くない。ダサいけど、ダサいとこがいい。
昔みたいに、ダサいことに陶酔したい。と思うのは青いのかはたまた年くったからか。
「アイジョウ禁断症状」
http://f16.aaa.livedoor.jp/~jcimp/
**箇条書き**
「道」
●最初にあったのは音だった。渦のようにうねり、囁くような微かな音。
いつしかその音は遠ざかり、代わりに賑やかな人の話し声が私を取り囲んだ。
おそるおそる目を開けてみて目に入ったのは
泡のように滲む色とりどりの光の玉。そしてしっかりと組んだ両の手だった。
それは自分の手であることが分かったのは、目がだいぶ慣れてきてからだった。
●ゆっくりと辺りを見渡すと、光の玉はだんだん輪郭を持ちはじめ、
ネオン看板や外灯や、ビルの窓の形になった。
●そうして、一番最後に手の感覚がやってきた。
感覚が「戻った」と言うべきなのかもしれないが、
その時の私にはそれは初めて訪れたものにしか思えなかった。
固く握り合わせ、冷たく痺れた指。私は何故こんなにも強く手を握り合わせていたのか。
●私の傍を人々が通り過ぎてゆく。皆、どこから来て、どこへ行くのか。
私もどこかへ行く途中だったのだろうか?歩き出す。
信号が青になったから皆歩き出したのだ。私も そうする。とりあえずは、歩き出せる。
風が頬を撫でて気が付いた。海が近い。
●どちらが海なのか分からないが、とりあえずはこの坂をまっすぐ降りていけばいいだろう。
水が海へ流れ込むように。ずっとまっすぐ降りて行けば海に近づくことはできる。
両の手は、まだ組んだままだ。
●時々空を見上げては何かを探す自分に気付く。
夜の空には星がきらめいているが、私の探すものはそれではない。
寂しくなって歌を歌う。歌、これは歌だ。
さっきまで聞いていた音のことを思い出した。あれは歌だった。
●何も持たないまま、私は歩く。だけど歩き方を知っている。
寂しいときに口ずさむ歌も知っている。
組んだ指を解こうとして、私はまたひとつ、思い出した。
今、とても不思議に思うことなのだが
私は、こんな風に海に向かって歩き出せる日が来ることを、ずっと祈り続けていたのだった。