Rain Rain

過去のファイルから見つけた、劇の脚本の断片。
冒頭、主人公の少年の独白。


「子供の頃から、雨の日が好きだった。特に理由があったわけじゃない。ただ、眩しい光が昔からちょっと苦手だったから。友達と外で遊ぶのは楽しかったけど、明るい日差しは何だか僕には強すぎて目まいがしたんだ。キラキラした木々の緑。白く光るグラウンド、輝いている友達の目。そういうものは全部、僕には鮮やかすぎて目を開けていられない気がした。だから、薄暗い雨の日が何だか優しく思えてホッとしたんだ。ただ、それだけのことだった。だけど今日、ここまで一人で来てみて、僕は初めて知った。激しい雨の中、ほんの数十センチ先にあるだけの植え込みの花の色も、すぐ傍に止めてある車も、ぼんやりとしか見えない。道の向こうに何が広がっているのか、まるで分からないで一人歩いている。そうしていると段々、周りが何も見えなくなって自分の身体だけはハッキリと鮮やかになってくるんだ。傘を持っている手が痺れているのも、水が溜まってきた足の裏の感触も、ゆっくりと額を伝う水滴が、雨粒なのか汗なのかも、全部が鮮やかに感じられた。生きている実感が、晴れた日の何倍も感じられたのが不思議だった。そんなこと、今まで一度も感じたこともなかったのに。どうして僕はこんなところを一人で歩いているのか、どうして、こんなことを考えているのか、どうして僕は、今、こんなところに」