歴史でたどるあのモノガタリ 〜平安時代編〜

さて。いよいよ平安時代へ突入。
平安時代は言わずと知れたロマンあふれる名作ぞろい。
王朝文化っていいよね。教養と恋愛が文化を作っていた時代。優雅な毎日の裏には、血なまぐさい策略がはりめぐらされていたり、深い闇の中には魔物が潜んでいたり、そういう光と影のコントラストがこの時代の魅力です。



●「ラブパック」大和和紀 … そう、ここに来るなら本来、「あさきゆめみし」のはず。常識的に考えて。しかし、大和和紀氏の漫画で一番好きなのが「はいからさんが通る」である私にとっては、断然こちらの方が好みなのだ。
あさきゆめみし」と同じく源氏物語をベースにしているが、原作に忠実な「あさきゆめみし」と違って、「ラブパック」のストーリーはほとんど作者の創作である。
比較的初期の作品で、「はいからさん」と同じ絵柄、同じノリのラブコメ作品。

おてんば姫として有名な菜々(なな)。彼女が和歌もお琴も習わないまま、男に見向きもしないのは、幼いころに出逢った謎の若君と約束をしたから。
親のすすめで当世きってのプレイボーイ、源氏の君の館で働くことになるが、硬派な菜々は、女たらしの源氏が大嫌い。源氏の君はそんな菜々を面白がってからかう毎日。そんなある日、菜々は都を騒がす盗賊の頭領、”疾風(かぜ)”と知り合うことになるが、なんと彼の正体は源氏の君のもう一つの人格だった……。

源氏物語」は、もちろんすばらしい文学なんだけど、なんていうかどうにもウェットでうじうじしてて、そこまで好きってわけじゃない。特に、原作の源氏の君の性格がどうにもウザいというか……。「ラブパック」は、大和氏持前のカラっとした明るさで描かれていて、登場人物がいきいきと元気に動き回るし、ストーリーは荒唐無稽。王朝文学の勉強としては参考にはならないものの、その疾走感がたまらない。ヒロイン菜々のキャラクターは、後で紹介する「なんて素敵にジャパネスク」の瑠璃姫の元にもなってるような気もする。氷室冴子氏が「ラブパック」読んでたかどうかはわからないけど。まあ、昔の少女漫画のヒロインは結構な確率で”おてんば”だったような。今はそういう設定、あんまりないのかな。

試し読みできるところ見つけた。
http://www.comicpark.net/cm/comc/detail-bnew.asp?content_id=COMC_AKC00017


●「陰陽師夢枕獏 … 平安時代もので言えば、何をおいてもこの作品を忘れるわけにいかない。もう何度繰り返し読んだことか。闇の中には数多くのあやかしが住んでいて、”呪(しゅ)”が人々の生活に強く結びついていた時代。華やかな宮殿の中だけでなく、都の外や、庶民の生活にも触れ、描写がいちいちリアルなので、読者は平安時代の生活を疑似体験できる。「陰陽師」を読むと、本当に牛車に乗ったことや、真夜中の都を歩いたことがあるような気になるんだよなあ。

陰陽道を極め、都を守る役目を持つ陰陽師安倍晴明。比類なき頭脳と不思議な力を持つ彼は、権力や名声には無頓着に、ただ飄々と生きている。同じくマイペースな親友、源博雅とただのんびり酒を飲むことを楽しみとする。そんな彼らの前には、不思議な事件、不思議な訪問者が後をたたない……

第一巻にある清明と博雅の”呪”についての問答はすばらしい。
桜の花は、”桜”という名前の”呪”で縛られているからこそ、桜である。
人も、名前という”呪”で縛られているから、その人として生きる運命を背負うのであって、恋も”恋”という名に縛られているからこそ……とかいうやつ。自分を自分だと信じることは、”呪”の一種だというわけだ。

陰陽師」は岡田玲子氏によって漫画化もされていて、これにもかなりハマった。絵もため息出るような美しさだし、キャラクターもほぼ読者の想像通りなのがうれしい。ただし、原作に忠実な第6巻くらいまでかな。それ以降は岡田ワールド全開でついていけなくなってしまう。
個人的に好きな話は、「黒川主」と「鉄輪」「青鬼の背に乗りたる男の譯」「玄象といふ琵琶鬼のために盗らるること」……ああ、いっぱいありすぎる。


●「なんて素敵にジャパネスク氷室冴子原作/山内直美 … タイトルがなんかもう、80年代だな。口に出して言うのが恥ずかしい(笑)。しかし、これも思い出深い作品である。一晩をともにしたあとに恋人同士が交わす”後朝の歌”とか、この漫画で初めて知ったような気がするし。
ところで今あらためてWikiであらすじ読むと、主人公瑠璃姫の”初恋の少年・吉野君の面影が忘れられず、当時の結婚平均年齢であった13〜14歳を過ぎても独身主義を通していた。美人ではないが、性格は明るく勝ち気で活発、理性的だが時に突飛な行動を取り、情にもろい一面もある”って、やっぱり「ラブパック」とめっちゃかぶってる設定だと思うなぁ。
まあ、その後の展開は全然違ってくるけど。個人的には、相手役の高彬(たかあきら)よりも帝が好きだったかな。ああ懐かしい。
山内氏の平安ものの漫画では、「とりかえばや物語」を原作とした「ざ・ちぇんじ!」も有名。(これもかなりありえないタイトル……)同じくハマって、原作の「とりかえばや」をわざわざ原文で読んだこともあった。
中学高校と、この手の漫画のおかげで古典がめっちゃ好きになったので感謝してる。


陰陽師 (1) (Jets comics)

陰陽師 (1) (Jets comics)

陰陽師 (文春文庫)

陰陽師 (文春文庫)

なんて素敵にジャパネスク (第1巻) (白泉社文庫)

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