備忘録4月〜5月

●名短篇、ここにあり (北村薫宮部みゆき編)
面白かった。北村氏のアンソロジーには今のところハズレがない。全部面白かったけど、特に印象に残ったのは吉村昭の「少女架刑」。解剖用に献体された少女が切り刻まれ、骨になるまでを一人称で語る。エロくて悲しくて空しくて、そして妙な安らぎがある。乙一の「夏と花火と私の死体」って、これから発想したのでは。あとは、小松左京の「むかしばなし」城山三郎の「隠し芸の男」が面白かった。半村良の「となりの宇宙人」は落語みたい。声出して笑った。


●Daddy Long Legs (勝田文
ノトさんが貸してくれたおすすめ漫画です。原作はウェブスターの「あしながおじさん」。舞台を昭和初期(大正?)の日本に移し、孤児の女学生と援助を申し出る若き実業家とのロマンスを描く。原作が書かれたのは90年ほど前らしいので、時代はちょうど合ってるはず。いいなあ、私も女学生になって年上の人に恋をしたい。ていうか、「あしながおじさん」って少女の夢だな。この人の作品をはじめて読んだけど、独特の軽快さ、ドライさの中に、時々熱い情熱がきらめくところがいい。セリフのないシーンとか、キャラクターの表情がいいんだよな。飛行船を見つめるシーンとか、卒業式とか、二人の間合いにドキドキする。このセンス、二ノ宮知子氏にもちょっと似てるかも。


カムイ伝 (白土三平
小学生のころ全巻読んで、どえらいショックを受けたのを覚えている。改めてその感動を、ということで一巻から改めて読む。ちなみに貸してくれたのはピラニア食べ放題のユキちゃん。彼女の家の猫はカムイちゃんといいます。苔丸かっこいい〜。権もいい男だな。日置領主は悪者すぎるだろ。読んだことある人は分かると思うけど、主人公はほぼ正助で、カムイは話が進むにつれだんだん影が薄くなっていく。映画化されるのはカムイ外伝だから、カムイが主人公みたい。外伝は読んでないんだよな。やっぱり本編って映画化は難しいんでしょうか。正助を妻夫木とかでやったらいいのに。まあ、陰惨だし思想偏りまくりですが。しかし、それでもこの作品からあふれるエネルギーはすさまじい。ラストまで読んでトラウマで眠れなくなった漫画は、カムイ伝漂流教室くらいのもんです。はだしのゲンもだけど、これは最後まで読めないまま。


●私家版鳥類図譜 (諸星大二郎
妹に貸していた本を、ガラスの仮面43巻と交換で返してもらう。久々に読んでまたハマる。もちろん諸星氏の作品は全部好きなんだけど、本書には特に、心のやらかい部分をえぐられる。”鳥”をテーマにした短編集。鳥って、人間には特別の思い入れがある動物なんだと改めて思い知る。いったい自由に空を飛ぶということに、意味を持たせないでいることができるだろうか。鳥は自由、未知、恐怖の象徴。時には死んだ人間の魂にもたとえられる。作品集の中で断然すばらしいのが、「塔に飛ぶ鳥」。その世界は、ひとつの大きな塔の中にある。上下に無限に続くらせん階段があり、内部は何層にも分かれ、それぞれが独立した国になっている。塔の中央には大きな太陽があり、人々は塔の内部を”世界”、塔の外は”虚空”と呼ぶ。少年は、どんなに諭されても世界の内部に興味を持てず、何もない、無だけが広がる虚空に憧れてやまない。「”世界”の外に意味はないのに……」
なんですかこの発想は。どこからこんなイメージが出てくるんですか。カオカオ様に続いて、諸星作品の中でのマイベスト5位に入る作品。他には、「鳥を売る人」「鳥を見た」が好き。