望んだ場所に行くためにジタバタするべきか、否か

親譲りの無駄なあがきが好きなタチで、昔から損ばかりしている。

……この一文を書くためだけにわざわざ「坊ちゃん」を探し出してみたが、語呂は悪いしそもそもたいして大事なことでもなかった……
まあ、それはそれとして。

自分の目指す目標に向かって、頑張れば頑張るほど、当初の目標から遠ざかってしまう経験をしたことはないだろうか? 私はよくある。先日もそんなことがあったばかり。


フリーになったということで、とにかく仕事をもらおうと、ここ2,3ヵ月ジタバタしていた。手当たりしだいに営業かけて、メールでプロフィールを送りつけて、それでも足りなくて焦っていた。自分の得意な分野はもちろん、そうでもない分野の仕事も取ろうとした。「自分のスタイル」をちゃんと持っていなければいけない、ということくらいはわかっていたが、そんなことにこだわるのはある程度仕事がもらえてからでいいと考えていたし、自分の持ち味がいきなり売り物になるとも思えなかったからだ。


その日、応募していたある媒体の美容ライターの面談で、私は決定的な自分の間違いを知る。なぜ応募してきたか、という問いに、ふと答えようがない、と思ったのだ。
もちろん、適当だと思われる答えは用意してきたつもりだった。その場でそれを言うこともできた。しかし、それはあまりにも不誠実だということに気付いたのだ。


目の前にいるその媒体の代表である女性は、とても美しい人だった。ぱっと見た外見はもちろんのこと、すぐには見えないところ、身のこなし、表情、おそらくは内面の心意気といったものも、すべてに彼女の美意識が生きているのが感じられる。美容を仕事にするとは、こういうことなのだ。この人は、心の底から美容を愛し、こだわっている。


それがわかった瞬間、自分がなんて失礼なやつかということを思い知った。いや本当に、ガーンという音がするくらいに。私はこの人の何分の一も、美容に対する興味を持っていない。知識があるないとか、そういう問題ではない。たとえ知識と経験がゼロでも、情熱があればここにいる資格はあるだろう。つまりはそういうこと。


向こうにもそんな私の雰囲気が伝わったはずだ。「ご自分のやりたいことを、自信を持って極められてはどうですか?」という優しい言葉をもらった。ちなみに、彼女は私が得意とするジャンルを「文学、教育に関すること」と理解してくれていた。私に対して、ちゃんと興味を持ってくれたのだ。

それに比べて……私はどれだけ彼女と彼女の仕事に興味を持っていただろう。


節操なくジタバタすることを、こんなにも恥ずかしいと思ったことはない。
今までは、軌道に乗るまではなりふり構わないのも仕方がないとさえ考えていたのだが、やっぱりそれは違う。

行動することで影響を受けるのは、自分だけではない。関わってくるすべての人に、影響を与えてしまう。今回のことで言えば、あの彼女は「あの人、何だったんだろう……」という、考える必要のないことを考え、使う必要のない時間と気遣いを浪費してしまったこだろう。本当に申し訳ない。マジで。


しかし、私にはとてつもなく有益な経験だった。


こうやって書いてみると、何を当たり前のことを言ってるんだと自分で情けなくなるが、実際、人生には体験しないと身に付かないことがたくさんあるのだ。
特に、私のように人の話を聞かない人間には。