「パノラマ島綺譚」 江戸川乱歩

最近レビューばかりになってますが、とりあえず書けることから書いていこうと最近決めたので。
迷っているときは迷ってちゃダメですな。なんか答えが見えなくても、不安でも、何でもいいから書いてればとにかく気が治まるっていうのはある。


それはともかく。相変わらずネタばれします。
乱歩、もちろん読んでたけど特に好きというわけでもなかった。
急に読みたいと思い立ったのは、最近書店で丸尾末広の「パノラマ島綺譚」をよく見かけるようになったから。
ちらっと立ち読みしてみたところ、かなり面白そうだったので気になってたものの、買う勇気はなく……。実は私、丸尾氏の漫画めっちゃ苦手なのだ。すばらしい作家とはわかっているけど、どうしても無理。そういうわけで原作から読むことにしたのだ。


光文社文庫江戸川乱歩全集の第二巻に収録。作品としては短編といってもいい長さ。しかし、乱歩の他の話と同じく、その濃密さたるや。確かにこれはビジュアル化したくなるはずだ。


うだつのあがらない書生、人見廣介はかつての同級生が急死したことを知る。大富豪で知られたその同級生は、偶然にも自分とそっくりの顔を持っていた。地上のユートピアを作る夢を持っていた人見は、広大な土地と財産を奪いとり、誰もなしえなかった広大な計画を進めつつあるのだった……。


「鏡地獄」や「押し絵と旅する男」もそうだけど、乱歩はトリックや錯覚を使った幻視の世界に強く魅かれている。「パノラマ島綺譚」もそんなシリーズのひとつ。
推理小説らしく、死人との入れ替わりのトリックを詳細に書いているけれど、実はそこはあまり重要じゃない。この作品の核をなすのは、何と言っても彼の妄想を実現した、「パノラマ島」の描写だろう。海の中を抜けるガラス張りのトンネル。人魚が遊ぶ泉、裸の美男美女が追いかけっこする花畑、生きた人間を使った彫刻の数々。絶妙な設計のおかげで、楽園に入った人間は実際の広さを見誤り、地平の果てまで続く夢を見ることになる。


うーん、いいなぁ。怖いけど。極彩色の悪夢。こういう妄想っていったいどれくらいの人がしているんだろう。禍々しくも美しい夢。それに形を与えたのがこの作品なのかもしれない。
そして、物語は悪夢にふさわしい結末を迎える。



−いやいや、そうではなかったでしょう。古風な物語の癖として、クライマックスの次には、カタストロフィという曲者が、ちゃんと待ち構えていた筈です。−

江戸川乱歩全集 第2巻 パノラマ島綺譚 (光文社文庫)

江戸川乱歩全集 第2巻 パノラマ島綺譚 (光文社文庫)