「黒塚 KUROZUKA」 夢枕獏

ネタばれしてます。
冒頭から中盤まではめっちゃくちゃ面白かった。
兄の追跡から逃げのびた先で九郎が出会った、不思議な美女、黒蜜。彼女と結んだ縁は、不老不死の命を彼に与え、一千年もの長い時間、彼をさまよわせることになった。
長すぎる生の中で彼は記憶をなくし、黒蜜を追う旅を続けることになる。鎌倉時代から、江戸、現代を経て舞台は未来の日本へ。”異変”の後の混乱した社会で、九郎はおのれの生のあり方を見出すことができるのか。


これぞ夢枕獏っていう、濃厚で耽美な世界。魅力的な登場人物。物語のテンポもいいし、あらゆる伏線はストーリーに深みを与えていて、ページをめくるたびにワクワクした。
黒塚の鬼婆伝説やヴァンパイア伝説も、近未来の荒廃した日本も、描き方ひとつで恐ろしくベタでありふれたSFになってしまう。しかしそこはさすがの夢枕獏。読者は一度たりとも”よくあるパターン”なんて思わない。
そう、面白かった。謎の組織「埴輪」を探して、三輪山で居座魚に会うあたりまでは。
……いや、そこからラストまでも充分面白いし、一応伏線はすべて回収され、辻褄もちゃんと合っている。
だけど、それだけなんだよなー。


物語が面白くなる要素が全部出揃ったところで、特に何もないままラストを迎えてしまったような感じ。
特にライの存在が中途半端になってしまったのが残念。あのまま仲間に加わるのって、彼女にとってはすごい残酷な運命なわけで、そのへんのドラマを描かないのはもったいなさすぎる。少なくとも倍くらいの長さにする予定だったんじゃないのかなぁ。個人的には弁慶の動機はもっと複雑なものにして欲しかった。あと、九郎と黒蜜の二人が”時のいや果て”まで旅を続ける、というラストはありとしても、とりあえずの物語の決着はつけるべきだったのではないだろうか。九郎が黒蜜を殺そうとするくらいの。
うーん、とにかく不完全燃焼。もやもやした読後感が残る。
漫画化とアニメ化されてるようなのでどちらも見てみたけど、ちょっとイメージと違う感じだった。グロとエロと、ビジュアルばかり強調されて、気品がないっていうか。

黒塚 KUROZUKA (集英社文庫)

黒塚 KUROZUKA (集英社文庫)